オーネット・コールマン、ジョン・コルトレーン、マイルス・デイビスにおけるアフリカ回帰性・・・(2)

マイルス・デイビス「マイルストーン」のフレーズアナライズ

マイルス・デイビス「マイルストーン」、トランペット アドリブパートのフレーズアナライズをする。

NY 在住の知人であるジャズギタリストの話では、今( 2014 年 12 月)の NY のジャズシーンは、どこへ行ってもモードジャズということらしい。少し誇張した話としても、今後のジャズシーンでモードジャズが、再興する兆しなのかも知れない。

この マイルス・デイビス 「マイルストーン」 のアナライズは、あまり見かけない。 60 年代のジョン・コルトレーン、マッコイ・タイナー、チック・コリア等の、いわゆるモードジャズとは考え方が少し違っており、結果としてはかなり違ったものになっている。

このモードという音楽に対峙するにあたって、まず今まで学校で習った音楽を忘れる。ポップス、ロック、ブルース、コードジャズなどを頭の中から消し去る。コードジャズの発展形などと考えない。それよりも、トーナルセンターの変形と考えた方がわかりやすい。

この「マイルストーン」は、ハーモニーが 3 度の積み重ねになっており、コードを意識しているかどうかは別として、コードと同じものとして、ハーモニーされている。コードといっても、コードジャズのように小節ごとに割り振られているものではない。モードジャズにおいては、そのモードのスケールの音をどのように組み合わせてハーモニーを作っても良いというのが基本的な考え方であり、この曲では、コンセプトとして、 3 度の積み重ねをハーモニーとして使用している。これをコードとして考えると、A ドリアン( Cメロで考える。実音は G ドリアン)時における、コードのトニック、ドミナントは次のようになる。

  トニックコード・・・・・Am7  ,  CM7  ,    F#m7(b5)

     ドミナントコード・・・ Bm7 ,  GM7 ,  

    中間的コード・・・・・ D7 ,   Em7

これは、「JAZZ STUDY」に書いてあることと少し違う。どうしてこうなったのかというと・・・ A ドリアンスケールの最初(1 番目)の音、A音の上に  3 度づつ、A ドリアンスケールの音を積み重ねていく。すると、 4 声の場合、Am7 のコードが出来る。この Am7 をトニックコードとする。同様に、2 ~7 番目のスケールの音の上に、A ドリアンスケールの音を 3 度づつ積み重ねると、それぞれコードが出来る。Bm7、CM7、D7、Em7、F#m7(b5)、GM7  である。トニックコードかつ、センターコードであるAm7 の構成音 4 つ(A、C、E、G)のうち、3 つ共通音を持っているコード、CM7、F#m7(b5) をトニックとし、一つしか共通音を持っていないコード、Bm7、GM7 をドミナントとする。そして、共通音を2つ持っているコード、D7、Em7 を中間的なコードとする。ただし、F#m7(b5)、D7 は、トライトーンを持っていて、機能的和声のドミナントモーションをイメージさせるので、F#m7(b5) は使用せず、D7 は、D のトライアド(3 和音、3 声)として使用することになっている。が、チック・コリアの「マトリックス」、マッコイ・タイナーの「ブルース・フォー・グウェン」等の、モーダルなブルース、モーダルなステンダードにおいては、トライトーンを含んだハーモニーを使用している。モードにおいて、トライトーン絶対禁止と言う訳ではないらしい。7th コードに限らず、マイナーコードも、メジャーコードも、 4 声よりも 3 声の方が浮遊感がある。

A ドリアン時におけるメロディラインのトニック、ドミナントは、次のようになる。

  トニック・・・・・A,     C,     E

  ドミナント・・・G,     B,      D,      F#

これは、 A ドリアンの最初の音( 1 番目)である  A は、トニックとする。A が鳴った時、倍音上、 A の次に出てくる  E 音もトニックとする。この曲が、 3 度重ねのハーモニーを持っており、そのハーモニーのトニックが Am であるので C 音をトニックにしているが、これは、A の倍音列にない音であり、この曲では実際にマイルス・デイビスは、終止音としては、使用していない。 2 分音符以上の長い音価で使用されている音は、 A と E である。事実上、 A と E のダブルセンターとなっている。A , C,  E 以外の A ドリアンスケールの音をドミナントとする。

 2 ~ 3 小節 A パートのアドリブの 2 小節目からトランペットのアドリブソロが始まる。 2  小節( 8 分休符、 4 分C,  8分B,  C ,  D , 4 分E ),  3 小節(付点 2 分 E , 4 分休符)。すべて A ドリアンの音で出来ている。トニックである C から始まって、 2 度で動いて、トニック音 E で終止している。 C と E の音価も長い為、ややトニックよりのフレーズである。

この曲におけるマイルス・デイビスのアドリブフレーズは、グリスノートを除いて、すべて指定のモードの音の組み合わせで作られている。しかも、 2 度の連続が圧倒的に多い。

4 ~ 5 小節 4 小節( 4 分休符、 8 分休符、 8 分D , 4 分 E , 8 分D,  E, タイ)。  5  小節(タイ、付点 2 分 E、8 分休符、8 分D)。 D と E の 2 度の連続。音価の長さからややトニックのフレーズ。

6 ~ 7 小節 6 小節( 8 分休符、 4 分E,  8 分D、タイ、 8 分D、 E 、 D 、 B 、タイ)。 7 小節(タイ、 8 分B 、 4 分A、 8 分A、タイ、 2 分A )。 E で始まって、 2 度で動いて、 3度が一箇所あるがA で終止している。 6 小節 4 拍目の 3 度が、少しドミナント感があるが、全体的にはトニックのフレーズ。

8 小節 全休符。

 9 ~ 10 小節 9 小節( 8 分休符、 4 分 B、 8 分 A 、 G、 A、B、C)。 10 小節( 4 分A、 2 分 A 、タイ、 8 分 A 、C)。ドミナントである B音から始まって A ドリアンスケールを 2 度で動いて、 A音で終止している。A 音で終止する直前に、 3 度の跳躍がある。それまでの、 2 度の連続に対して変化という意味でのドミナント効果がある。 2 度の連続の場合、トニックとドミナントが、交互になることが多いので、中間的なフレーズになる。 9 小節は中間的であるが、ドミナント音B で始まっているのでややドミナント。センタートーンA が多い 10 小節はトニック。

 11 ~12 小節 11小節( 8 分B、C、 4 分D、 2 分A、タイ)。 12 小節(タイ、4 分 A、 8 分休符、 8 分B、 A、 B、 A、 D)。 10小節 4 拍目の裏、C 音から 12 小節 1 拍目の A音までが、ワンフレーズと考えられる。それは、トニック音 C から始まり、 2 度で動いて、 4 度跳躍して、トニック音 A で終止する。12 小節 2 拍目の裏のドミナント 音 B から始まり、 2 度の連続で、 13 小節 1 拍目のトニック音 E で、終止までがワンフレーズ。共に、トニック寄りのフレーズである。

 13 ~ 16 小節 13 小節( 2 分E、 4 分D、 8 分休符、 8 分B )。14 小節( 2 分A、付点 4 分B、 8 分Db、タイ)。 15 小節( タイ、付点 4 分Db、 8 分A、タイ、 2 分A )。 16 小節( 2 分休符、8 分B 、C#、D、E )。 13 小節 3 拍、 4 拍の D、 B は、ドミナントで次の 14 小節頭の  A で終止している。 14 小節 3 拍目から 16 小節までは、この曲の B パートと同じモード、B エオリアンスケールでフレーズが出来ていて、B パートのアドリブフレーズが、 2 小節半、前にずれこんできたと考えられる。これは、コードジャズでもしばしばあることで、ドミナントを作る手段の一つである。  

 17 ~ 32 小節までは、B パートで、モードが B エオリアンスケールに変わる。 33 ~ 40 小節は、C パートで、 A  パートと同じ、A  ドリアンスケールになっている。 B  エオリアン時におけるメロディラインのトニック、ドミナントは、次のようになる。

  トニック・・・・・ B、D、F#、

  ドミナント・・・・A、C#、E、G

 また、B エオリアン時における、コードのトニック、ドミナントは次のようになる。

  トニック・・・・・ Bm7、DM7、GM7、

  ドミナント・・・・A7、C#m7( b5 )

  中間的コード・・・Em7、F#m7、

 17 ~ 19 小節  17小節(付点 4 分 F#、 8 分 A、タイ、 8 分 A 、付点 4 分F#、タイ)。18 小節(タイ、2 拍 3 連 F#、 D、 F#、 2 分 E 、タイ)。 19 小節(タイ、 2 拍 3 連 E 、 C# 、 D 、 2 分E )。17小節から B パートとなる。 17 小節頭の F# 音から 18 小節 2 拍まで、 D のトライアド(コード分散)になっている。続いて、 2 分 E で音を伸ばしている。ただし、 E 音は、ドミナントなので、この音で終止しているわけではない。 19 小節、 2 度で動いて、 E 音で伸びている。 E 音は、センタートーンではなく、終止にはなっていない。まだ、次に続く感じがある。 17 小節から 18 小節 2 拍まではフレーズ的にはトニックであるが、音域は高く、 3 度が多く安定(トニック)とは言えない。次の E 音もフレーズ的にはドミナントである。 19 小節はドミナントになっている。全体的には、前半トニック、後半ドミナントと言える。 

 20 ~ 23 小節 20 小節( 8 分休符、 8 分 D、 1 拍 3 連 C#、 D、 C#、タイ、付点 4分C#、 8 分 A)。 21 小節( 4 分 B、C#、タイ、 2 拍 3 連 C#、 A、 B )。 22 小節(付点 4 分 C#、 8 分A、付点 4 分F#、 8 分 E )。 23 小節( 2 分 C#、 4 分 A、 4 分休符)。 20 小節 4 拍目裏の A 音から 23 小節 3 拍まで A ペンタトニックスケールが使われている。その中で、 22 小節には F#m7 のコード分散が見られる。 A ペンタトニックスケールの音は、すべて B エオリアンスケールの中にある音であるが、 A ペンタトニックスケールをコードに置き換えれば、 A ( 6 、9 )となり、どちらかと言うとドミナントである。フレーズ最後の音は A で、これもドミナントで終止はしていない。

 24 小節 全休符。

 25 ~ 26 小節 25 小節( 8 分休符、 4 分 A、 8 分 B、2 拍 3 連 C#、 D、 E )。 26 小節( 4 分 F#、付点 2 分 E 、タイ )。 A 音から 2 度の連続で動いて、 E 音で伸ばしている。終止はしていない。全体的にはドミナント。

27 ~ 31 小節 27小節(タイ、付点 4 分 E、 8 分 D 、 1 拍 3 連C# 、 D 、 C# 、タイ、 4 分C# 、タイ)。 28 小節(タイ、 2 分 C# 、 8 分休符、 8 分 A 、 B 、 C# )。29 小節(付点 2 分 A、 4 分 F# )。 30 小節(全 E 、タイ )。 31 小節(タイ、 2 分 E 、 2 分休符)。 27 小節、 D 音で始まって  2 度で動いて C# で伸ばしている。終止しておらずドミナント。 28 小節 3 拍目の裏 A 音から、 30 小節 E 音まで A ペンタトニックスケールになっている。 A ペンタトニックスケールはドミナント。 E 音で伸びているが終止にはなっていない。

 32 小節 32小節( 4 分休符、 8 分休符、 8 分 F#、 G、A 、B、 Cナチュラル)。 C ナチュラルが使用されており、この 32 小節から A ドリアンにモードが戻っている。ここは 2 度の連続になっている。 C パートの A ドリアンモードが 2 拍半、前にずれこんでいると考える。当然ドミナント。

次の C パート 8 小節は、 A パートとほぼ同じなので、アナライズを省略する。

このマイルス・デイビス「マイルストーン」はどのようなシステムでできているのだろうか?私見ではあるが、こう考える。メロディとして使える音が、 12 音全部ではなく、モードのスケール音に限定された、トーナルセンターシステムであると言える。モードの音、一個一個が対等であるかというとそうではなく、モードにおける基音と第 5 音がセンタートーンになっていて、より重要感がある。ハーモニーもモードのスケール音のみで作られている。この曲ではたまたま 3 度でハーモニーされている。フレーズ的には、テーマもアドリブ(マイルス)も 2 度の連続(スケールそのままの上下)が圧倒的に多く使用されている。意識してやっているものと思われる。そのためか、ブルースっぽさはない。全体的な構成は A パートはトニック的に 伸ばす音は A と E に決めており、フレーズの中はほとんど 2 度で繋いでいる。 B パートは構成上ドミナントとしており、跳躍も多く、モードは A のドリアンから B のエオリアンに変化しているが、伸ばす音は A と E で変わらず、この音は、 B エオリアンにおいてはドミナントになっている。これも意識してやっていると思われる。モードはヨーロッパ古典音楽のチャーチモードを使っている。ジョン・コルトレーン、マッコイ・タイナー、チック・コリア等のモードシステムとはかなり違っていると言える。この「マイルストーン」の穏やかなモード感も好感がもてる。

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