マッコイ・タイナー、ペンタトニック、ペンタトニック (1)

Hymn Song」をアナライズする。(スマホの方は譜面をタッチ、PCの方は譜面をクリックでクリアに拡大できます)

Hymn Song」は、CD   “Super Trio ” の7 曲目にある。マッコイ・タイナーのオリジナル曲となっている。

この曲のアドリブフレーズの一部を抜粋して、アドリブにおけるフレージングアイディアを探ることとする。

ペンタトニックの表記については、ペンタトニックを、基本的に「 4 音コード + 1 」と考え表記する。トライアドの場合、「トライアド+ 2 」となる。 C メジャーペンタトニックは、 C 6 (2) ペンタ,  Cマイナーペンタトニックは、 Cm7 (4) ペンタ と表記する。
 
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 1.       1 小節目 3 拍裏~ 4 拍裏の Bまで、 G7(2)ペンタ。   1 小節 最後の E 音~ 2 小節 1 拍 最後まで、A6(2)ペンタ。 2 拍目から 3 小節 2 拍まで G6(2)ペンタ。 2 種類のペンタトニックのコンビネーションでフレージングしている。ペンタトニックを生み出す母体となるスケールは、右手のラインばかりではなく、左手のボイシングに使われている音まで考慮に入れて、決めなければいけない。この譜面には書いていないが、 1 小節目 3 拍裏下から B ,D, E , F が鳴って 2 小節目の 1 拍頭まで伸びている。 2 小節 1 拍目裏に、 4 分音符で下から  G, Cb, Fb,  が鳴って 2 拍目の裏、下から B, D , F が鳴って、 4 拍目最後まで伸びている。これを考慮に入れると、右手のフレーズの最初の D から、 2小節 1 拍表の  B まで Gリディアン7th スケール。次の A から、2 拍裏 G  まで、 G リディアンシケール。次の D から、 3 小節  2 拍まで Gリディアン7th スケールになっている。これは、左手のボイシングが、 G リディアン7thスケールのところは、 F を持っていて、 G  リディアンスケールのところは、 F# を持っている。そこで判断している。
 ほとんどが 16分音符だが、この音符は、スタッカート気味に切れ目を入れて弾かないと、このような感じにはならない。タイミングはかなり前で、全体にシャープに保たれている。これは、チック・コリアも同じである。チック・コリアと違って、この曲ではコンデミや、アルタードスケールから派生するアルタードペンタトニックがほとんど使われていない。但し、マッコイもスタンダードの曲では、ディミニッシュを多用している。
左手のハーモニーは、オーソドックスなコードジャズで使われるようなボイシングパターンを多用している。しかし、右手のラインが、ペンタトニックで弾いているので、全体に浮遊感がある。G6(2)ペンタトニックは、下から  B,  E,  A,  D,  G の完全 4 度のラインになる。ペンタトニックのラインは、完全 4 度のラインでもある。完全 4 度のラインと同じく 等音程のライン、ホールトーン、コンデミ、ディミニッシュ、オーギュメント、クロマチック(半音階)のラインは浮遊する。
マッコイ・タイナーの音には、ミシェル・ペトルチアーニや、チャーリーパーカーと同じ何かが、深く乗っている。チック・コリアのピアノの音とは違って、すごく暖かく、優しい音だ。表面的に優しく弾いている訳ではない。かなりガツンと弾いているが、音に人間的な優しさが表れている。マッコイのこの部分を評価する人はほとんどいない。コルトレーンカルテットで一番美しい音を出しているのは、この意味でマッコイ・タイナーである。コルトレーンは、意識してやっているのかも知れないが、ピッチはかなりフラットで、タイミングも少し遅れている。音に乗っかっているのも少し薄い。コルトレーンの影響を受けているプロのテナー奏者は、フラットで、遅れている人が多い。
 
 
 
2.       すべて F6(2)ペンタで、フレージングされている。
 
 
3.       1 小節 1 拍 A は、グリスノート。 2拍目は、 Eb6(2)ペンタ。 3 拍、 4 拍は、 F6(2)ペンタ。 2 小節全部、 G7(2)ペンタ。 3 小節全部、 F6(2)。 1 小節 3 拍目から、 3 小節 3 拍まで、 G7(2)ペンタとも言える。ペンタとペンタの境目は、常に、曖昧なものである。
 
 左手は 3 度のボイシングも結構多い。機能性の薄いコード進行で、 1 コーラス 2 8 小節の中で、メジャーコードの完全 5 度下降の進行は、 2 箇所のみ。 G – C のコード進行が 2 回に対して、逆進行と呼ばれる G  –  F (Dm)のコード進行が 10 回となっている。コードもトライアドの表記が多く、トライアドとすれば全部トニックと考えることができ、非機能的なコード進行となる。調性感(トーナリティ)はトニックが複数あることで曖昧になる。結果として調性感は薄くなり、コード進行にも浮遊感が生じるのだ。
 G のボイシングで、下から F, A, B, Eの様にトライトーン(F,B)を持っている場合が多い。モーダルなジャズの場合、7th コードは、トライトーンのあるボイシングは避けて 、G7sus 又は、 Dm7 / G の様にボイシングした方が良いとされるのが一般的だが、そんなことはないのだ。実際マッコイ・タイナーは、トライトーンを含んだボイシングをしている。チック・コリアもそうだ。モーダルな曲のハーモニーボイシングにおいて、ルールは、ひとつしかない。それは基本的に、そのモードを構成している音のみでボイシングするということである。モードでは本来、コードというコンセプトが無いので、アボイドノートという考えも無い。アボイドノートも使える。今でこそ、モーダルな曲にコードがついているのが普通だが、モードの方がコードよりも歴史的に古く、元々、コードというコンセプトが無い時代のモードは、複数のラインが、同時点で鳴ったところが、ハーモニーなのである。複数のラインはそれぞれ同じモードでフレージングされているので、たまたまそこに出来たハーモニーは、そのモードの音だけで出来ている。その時にできたハーモニーは、コードとかトライトーンとかの考えが無い時代のものなので、トライトーンも偶然表れる時もあるのだ。そして、当然 3 度の積み重ねのハーモニーもあるのである。そんなことは、意識してないのである。トライトーンも 3 度も、4 度、 5 度、 6 度、 7度、2 度も、モードの音を組み合わせで出来るインターバルであれば なんでもよいのである。モードは、 3 度のハーモニーもトライトーンも含んでいるのだ。コード進行というものを意識していないのだから、偶然のドミナントモーションも有り得る。モードは、ドミナントモーションも OK なのだ。但し、あまりそれが多すぎると、長調短調のヨーロッパ音楽と変わらなくなる。逆にいうと、長調、短調のヨーロッパ音楽は、このモードというシステムで偶然出来るハーモニーの中で、ROOT の5 度下降のハーモニーと、ドミナントモーションを強化(多用)した音楽と言える。モードのシステムは、ドミナントモーションもトライトーンも禁止ではなく、それらを含めたもっと広い機能性の薄いハーモニーと言える。従って、モーダルな曲についているコードは、機能和声でなくても良い。そして、機能和声でも良いのだが、それが多いと、長調短調のヨーロッパ機能和声の音楽に似てくる。それだけのことだ。
 
 
 
4.     1 小節 1 ~ 2 拍、Eb6(2) ペンタ。3 ~ 4 拍は、F6(2) ペンタ。 2 小節 1~ 2 拍、 A6(2)ペンタ。 3 ~ 4 拍は、G6(2) ペンタ。 3 小節 1 ~ 3 拍は、F6(2) ペンタ。
 
シンプルにペンタトニックだけでフレージングしている。グリスノートも、パッシングトーンも、半音階も使っていない。本当にペンタトニックのみである。そして、アウトのフレーズも皆無である。
 
 
 
 5.     小節断片である 1 小節 A,G 音から、 3 小節 2 拍目頭の G,C 音までF6(2) ペンタ。次の G,B 音は、G のコードトーン。
 
 
 6.     1 小節 1 ~2 拍は、 F6(2) ペンタ。 2 拍目の最後の D 音から 4 拍目 Fb 音まで GM7 のアルペジオ。 2 小節 1 拍、D6(2) ペンタ。 2 拍目、A6(2) ペンタ。 3 ~ 4 拍、G7(2) ペンタで、隙間無く音を埋めている。
 
 
この ” Hymm Song ”  においてマッコイ・タイナーの左手は、 3 度と 4 度が半々位の印象である。マッコイ・タイナーは 4 度のボイシングという印象があるが、この曲ではそうではない。 G においては、トライトーンを使って、 G7 でボイシングしているところが多いが、トライトーンを使っても次に解決(ドミナントモーション)しないと、浮遊感が伴う。 G7 –  F(Dm) のコード進行では、調性が曖昧になる。その調性の曖昧さが、サウンドの浮遊感に繋がるのだ。繰り返すが、モードのハーモナイズのルールは、そのモードの音を使ってボイシングする。これだけだ。マッコイ・タイナーのスタンダード曲の演奏でも、コードジャズ(機能和声)的な部分と、いわゆるモード(非機能)的なものが、バランスよく混合されている。機能和声とモード和声は対立するものではなく、機能和声はモード和声の一部なのだからというよりも、そんなことは考えなくてもよいのだ。しかしこの曲で、マッコイ・タイナーは、半分位はコード進行に忠実にコーダルなボイシングをしている。そして半分位はコードを無視し、モード内の音でボイシングしている。つまり、コードを意識しているということだ。それは、この曲にはコードが指定されているからである。
 
右手のラインについては、コード進行から想定されるモードから派生するペンタトニックのみで、アドリブのフレージングをしている。ペンタトニックは、通常メジャーペンタトニックと言われる基本的なペンタトニックがほとんどである。このペンタトニックは、完全 4 度のラインとなるので、このペンタトニックで作ったフレーズは、浮遊感が伴う。ここの抜粋したフレーズは、このペンタトニックの速弾きで、パッシングトーンもグリスノートもほとんど無い。意外なのは、モードから外れたアウトな音が全然無いことだ。この曲ではモードに沿って忠実にフレージングしていると言える。ドリアンとかミクソリディアンとかの 7 音モードっぽいフレーズも皆無である。半音階も無いのである。 90 % がペンタトニックのコンビネーションで出来ている。そしてマッコイ・タイナーの右手と左手を合わせると結果的にコードジャズとかなり違ったモーダルなジャズに仕上がっている。
 
モードジャズ以外に非機能的なジャズはもう一つあって、それはブルースと呼ばれているジャズだ。バークリー理論でもブルースは、上手く説明されているとは言えない。それは、解決しない  7 th コードが多いのと一つの 7th コードに 10 以上のスケールが使えるからだ。メジャーとマイナーの混合とかの問題ではなく、一言で言うと、センタートーンが同じならどんなフレーズでもいいのである。これは、アフリカ音楽に限ったことではないが、古代の民族音楽では、メジャーとかマイナーとかは当然無く、もっと漠然としたトーナリティ、一つのセンタートーンに収斂するシステムというよりも、感性である。ハーモニーというコンセプトもない。ハーモニーも、メジャー、マイナーもかなり後のシステムだ。センタートーンがあって、メロディが生まれて、メロディが終わる時は、その音で、終わる。シンプルなシステムの音楽だ。これをトーナルセンターシステムと呼ぶ、初期のアフロアメリカンが、コードの無い、トーナルセンターによるアフリカのメロディに、ヨーロッパのコード楽器を手にして、メロディにコードをつけた。そう考えると、一つのコードに複数のスケールが可能で調性が曖昧な事と、コードが機能的和声になっていないのがわかる。
 
私見だが、ブルースは、コードのあるトーナルセンターと考えた方が良い。なぜならブルースは、アフリカ民族音楽にコードをつけたと考えた方が自然だと思うからだ。
トーナルセンターもモードも、元々はコードの無いものだが、現在のジャズにおいては、コードがあるものも多い。マイルス・デイビスが良い例だ。
 
 
 
 
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 7.     1  小節 1 ~ 2 拍は、F6(2) ペンタ。 3 ~ 4 拍、G7(2) ペンタ。2 小節 1 ~ 2 拍の F 音までF6(2) ペンタ。次の G, B 音は、G のコードトーン。
 
 
 8.     1 小節 1~2 拍は、F6(2)ペンタ。3 ~4 拍は、G7(2) ペンタ。1 小節の最後の音G から 2 小節 2 拍までは BbM7(6)ペンタ。3 ~4 拍は、G6(2)ペンタ。スケールアウトは皆無である。
 
 
9.      1 小節2 拍裏から3 拍は、F6(2)ペンタ。4 拍目は、F リディアンスケールでのフレーズ。2 小節は、全部 G7(2)ペンタ。
 
 
10.    1 小節、 2 小節共に、 F6(2)ペンタでフレージングされている。
 
 
11.    1 小節 1 ~ 3 表拍までF6(2)ペンタ。 3 拍裏拍から 4 拍全部は、G7(2)ペンタ。2 小節 1拍目最初から3 つ目の音 E までは、G6(2)ペンタの一部分。C6(2)ペンタとも言える。1 拍目 4 つ目の音A から 2 拍全部は、GM7(2)ペンタ。3 ~ 4 拍は、G7(2)ペンタ。
 
 
12.   1 小節 1 拍は、F7(2)ペンタ。2 ~ 4 拍は、 G7(2)ペンタ。 2 ~ 3 小節は、F6(2)ペンタとなっている。
 
 
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13.     1 ~ 2 拍目3 つ目の音 D まで Bb6(2)ペンタ。 2 拍目最後の音 B から 4 拍最後まで G7(2)ペンタ。コードにそってフレージングしている。
 
14.     1 ~ 2 小節 1 拍まで Dm6(2)ペンタ。 2 小節 2 拍~ 3 小節 F まで G7(2)ペンタ。
 
15.     1 小節と 2 小節 2 拍まで F6(2)ペンタ。  2 小節 3 拍目は、 Dmのトライアド。 4 拍目裏は、Am のトライアド。3 小節  2 ~ 4 拍は、F6(2)ペンタ。
 
16.     1 小節 1 ~ 3 拍は、 C6(2)ペンタ。1 小節 4 拍から 3 小節 4 拍 G まで F6(2)ペンタ。
 
17.     全部 F6(2)ペンタである。

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