チック コリア スペイン(1)
「 SPAIN 」 における チック・コリアのアドリブ右手フレーズの一部をアナライズする。(スマホの方は譜面をタッチ、PCの方は譜面をクリックでクリアに拡大できます)
「SPAIN」は、CD ” Light as a Feather ” の 6 曲目にある 。この曲は形式的には 12 小節のマイナブルースの変形とも言える。
この曲のアドリブフレーズの一部を抜粋して、アドリブにおける フレージング アイディア を探ることにする。
a
上にあるのがスペインのアドリブ時におけるコード進行である。 この曲が機能和声的にどうなっているのかを考えてみる。調性記号の # が二つで、コード進行の終わりに Bm7 があるので、 Bm7が トニックと考える。T, M (トニックマイナー)である。
1 ~ 2 小節の GM7 のコード機能は微妙である。この GM7 が S , D , M (サブドミナントマイナー) である Em7 の代理なのか T, M ( トニックマイナー)である Bm7 の代理なのかが微妙である。コードとコードに代理関係が生じるシンプルな条件・・・ 4 声の内、 3 声が共通音なら代理となる・・・で考えると、Em7 と GM7 は、 G, B, D 音が共通で代理となる。Bm7 と GM7 は、B, D, F# 音が共通で代理関係となる。GM7 は、 S, D. M (Em7) にも、T, M (Bm7) にもなれるコードと言える。ここはあえて GM7 を T, M と考えてみたい。よって、 1 ~2 小節を T, M とする。3 ~4 小節の F#7 は 、D (ドミナント)である。5 ~6 小節の Em7 -A7 をまとめて S, D, M とする。A7 は、次のコード、DM7 に向かうアプローチコードと考える。 7 ~ 8 小節の DM7 は、 T、M の代理。GM7 も T, M の代理である。9 ~10 小節の C#7 - F#7 は、ダブルドミナントになっており、全体として D ( ドミナント)。11~ 12 小節の Bm7 は、T, M 。 B7 は、次のコードに向かうアプローチコード。ここは 2 小節まとめて機能的には T, M 。3 ~ 4 小節の F#7 (ドミナント) は別にしてその他のコードは機能的にマイナーブルースと同じになっている。全体として Bm のマイナーブルースの変形とも言える。しかし、実際のサウンドとしてはブルージーではない。
フラメンコでよく使われる特徴的なコード進行がある。Ⅵ m -Ⅴ-Ⅳ-Ⅲ のコード進行である。(特にフラメンコでは、Ⅳ-Ⅲ の進行が特徴的で、Ⅲ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅳ-Ⅲ 及び、 Ⅳ-Ⅲ の連続もよく使われる。)調性記号 # 2 個においてはこのコード進行は、 Bm - A - G - F# となる。そしてトニックコードは、 なんと, F# である。 F# で終止するということだ。なぜなら、 F# スパニッシュスケールのセンタートーンは F# だからである。# が 2 個の場合、Ⅲ のコードは、F#m のはずだが、誤りではない。さらに F# ではあるが、スケールは F# フィリジアンなのだ。これはマイナーのスケールである。そしてこの F# フィリジアンと F# のコードトーン( F# トライアド) をミックスすると、 F# スパニッシュスケールが現れる。下から順に、 F# , G , A , A# , B , C# , D , E の 8 音スケールである。ところがなぜ F#m ではなく、 F# なのかの説明を聞いたことが無い。そこでこう考える。
Bm - A - G - F# における Bm を Ⅵm ではなく Ⅰm として考えると、 F# は、Ⅴ になる。そして F# が Ⅴで、かつトニックならば、メジャーキーにおいては F# ミクソリディアンモードということになる。 しかし、ここはマイナーキーなので、F# のスケール は、 B ハーモニックマイナーになる。さらに、マイナーキーにおいて Ⅴm ではなく、 Ⅴ であることは普通のことである。そして B ハーモニックマイナーに Bm の本来のスケール、 B ナチュラルマイナーをミックスして、 F# から並べ直すと、 F# スパニッシュスケールが現れる。
F# をトニックとしたモードは、 F# ハーモニックマイナーパーフェクト 5 th ビロー +A モードとなるが、あまりなじみのある名称ではない(チャーチモードではない)。そこでわかり易く F# フィリジアン + #A モードとしてあるのでは・・・。
Bm - A - G - F# の中で、特にフラメンコ らしいのが G - F# の進行である。 F# がトニックなので、それに対するドミナントコードを探すと、 G ということになってしまう。バークリー理論における半音下降のドミナントモーションに近いものだからだ。フラメンコでは、この G - F# が連続することも多いので、このメジャーコードの半音上がったり、下がったりのコード進行が、フラメンコの特徴と言える。 F# が、 Bm に向かうことは非常に少ない。( Bm は隠れているといえる) F# がトニックなのだ。この G - F# のコード進行が、チック・コリアの スペイン の中にも使われている。上の譜面の最初の 4 小節の部分である。この曲に スペインの風を吹き込んだとしたら、この部分であろう。 5 ~ 12 小節は、形式的には B マイナーブルースのコード進行になっている。 1 ~ 4 小節でスペインを強調すれば、ここは F#7 がトニック、 5 ~ 12 小節は Bm7 がトニックのダブルトニックとなる。いわゆる 2 トニックシステムとは違うようだ。ジャズの中にスペインの香りを持ち込んで、成功した曲である。
次にスケールについて考える。
E・Piano S・Nagasawa Bess N・Sakamoto(歴7ヶ月)