チック コリア スペイン(2)

SPAIN 」 における チック・コリアのアドリブ右手フレーズの一部をアナライズする。(スマホの方は譜面をタッチ、PCの方は譜面をクリックでクリアに拡大できます)

SPAIN」は、CD  ” Light as a Feather ” の 6 曲目にある 。この曲は形式的には 12 小節のマイナブルースの変形とも言える。

この曲のアドリブフレーズの一部を抜粋して、アドリブにおける フレージング アイディア を探ることにする。

 

アドリブパート 12 小節の中で、 F# スパニッシュスケール( F# フィリジアン+ #A  または  B ハーモニックマイナー  + A  )  以外の音をコードトーンに持っているコードは、 C#7  ,   B7  の二つである。この曲の コンセプト ” スペイン音楽 とジャズのミックスである ”  を頭の隅に置いて譜面を眺めてみると、スパニッシュ風には、 C#7 ,  B7  のコードを無視して、1 コーラスすべてをF# スパニッシュスケール 1 発での演奏も可能だが、よりジャズ寄りの演奏となれば、すべての 7th  コードに複数のスケール設定が可能となる。スパニッシュ寄りにしろジャズ寄りにしろ、アボイドノートは考慮に入れる。実際チック・コリアはどんな演奏をしているのか、アナライズしてみる。

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 1 段目 、1 小節  。コードは GM7。 4 拍目の F# , E , D 音は、Bマイナーペンタ。2 小節、コードは、 F#7 。1 拍最初の F# 音から 2 拍の Ab 音まで、 F# ミクソリディアンのスケール音。 2 拍裏の G, F 音は、 3 拍の F# 音へ向かうディレイドリゾルブ。一部ディレイドリゾルブが見られるが、 2 小節全体を F# ミクソリディアンでフレージングという見方が一つ、もう一つの見方は、 1 拍最初の F# 音と 3 拍の F# 音は、ここのコードである F#7 のコードトーン、その他は G コンデミでフレージングとする見方だ。この場合、 2 小節全体を G7 - F#7  と想定している。最初の F# 音はグリスノート、又は、 1 小節の B マイナーペンタの音が後ろにずれ込んだと考える。 2 小節は、 2 通りの説明が出来る。 3 小節。ここもコードは F#7 。 2 拍の G , Bb ,  Db , Eb 音は、 Eb7 のコード分散。 3 拍は、 2 拍と同じ音型をオクターブ上で弾いている。この Eb7 のコード分散は、 F# コンデミのスケール音から出来ている。この 2 拍 3 拍は、 F# コンデミを想定している。 4 拍目の E , B ,  A 音は、 E マイナーペンタ。この 1 段目で、 F# スパニッシュスケールを使用したとも言えるところは、 1 小節最初の F# 音から 2 小節 1 拍最後の B 音までと、 3 小節 4 拍の 3 音である。

2 段目。1 小節 2 小節共にコードは F#7 。 1 小節、 1 拍最初の F# 音から 2 拍裏の A# 音まで、 Ebm7  のコード分散。 2 拍最後の C 音から , 3 拍最後の G 音まで、 Cm7  のコード分散。 4 拍は、 Am7 のコード分散となっている。これらのコード分散は、すべて F# コンデミのスケール音を拾った音で出来ている。 1 小節はすべて F# コンデミを想定している。 2 小節。 1 拍は A トライアドの分散。ここも F# コンデミである。 2 拍最初の G# 音から 3 拍表拍の F 音まで、 C# ミクソリディアン。 3 拍裏の C# 音から 4 拍終わりまで、また F# コンデミに戻っている。 4 拍の Bb , G# 音は、次の A 音に向かうディレイドリゾルブ。この 2 段目の 1~ 2 小節は、コード進行 F#7 - C#7  -  F#7   を想定してアドリブしていることになる。この 2 段目に F# スパニッシュスケールといえるところがあるかといえば、非常に苦しい。あえて言えば、 2 小節 1 拍目と 4 拍目だ。

 3 段目。 1 小節 2 小節共にコードは F#7 。 1 小節。 1 ~ 2 拍は、 Ebマイナーペンタ。 1 拍最後の G 音は、パッシングノート。 4 拍は、 F# コンデミ。 2 小節 1 拍 2 拍 3 拍 4 拍 すべての拍に、 A トライアドの分散を見つけることが出来る。この 2 小節の 1 ~ 2 拍は、素直な人は  F# コンデミと見るのが普通であり、たぶん、それが正しいだろう。しかし、 3 ~ 4 拍はどうなのか?実は、次の小節の 1 拍目は、 4 分音符の B 音なのだ。 2 小節最後の音が D 音であることも考えると、 2 小節 3 ~ 4 拍は、F# スパニッシュスケールが妥当であろう。そうなると、 1 ~ 2 拍は、最初の 1 音がグリスノートで、その後に A トライアド分散と考えることも出来、 2 小節全体が F# スパニッシュスケールと考えることもできる。しかし、これは、かなり無理な考えで、 1 ~ 2 拍は F# コンデミ、 3 ~ 4 拍は、 F# スパニッシュスケールが妥当であろう。

4 段目。 1 小節 2 小節共にコードは F#7 。そして 1 小節 2 小節共に F# コンデミでフレージングしている。 1 小節  4  拍の D 音はパッシングノート。4 段目で F# スパニッシュスケールと言えるところは、 1 小節 1 ~ 2 拍と、 2 小節 2 ~ 3 拍である。

 5 段目。 1小節、コードは C#7。ここで使用されている音は、 D , C# ,  B  音の 3 音のみ。これは C# コンデミのスケール音とも言えるし、 F# スパニッシュスケールのスケール音とも言える。 2 小節、コードは F#7。 1 拍は F# アルタード。 2 拍は F# スパニッシュスケール。 5 段目は、 2 小節 1 拍を除いて、 F# スパニッシュスケールと見ることが出来る。

 6 段目。 1 小節、コードはC#7 。 1 拍、最初の音は、前の小節の Db 音とタイで繋がっている。従って、この最初の音は Db 音である。 1 拍は、 C#7 のコードトーンとなる。 3 拍最初の F 音から、 4 拍最初の B 音まで、 C# ミクソリディアンのスケール音。 4 拍の 4 音は半音階になっている。 1 拍の Db 音から 4 拍の B 音まで、 C# ミクソリディアンとする見方だ。これに対し、 1 ~ 4 拍すべて C# コンデミとする見方もある。 4 拍目の C 音は、パッシングトーン。どっちの考えでフレージングしたのかは、チック・コリアに聞いてみないとわからない。 2 小節、コードは F#7 。 1 拍は F# コンデミと見るのが普通である。最初の D# 音がグリスノートで、後の E , G , Bb  音を F#アルタードとするのは、素直ではない。 2 拍は F# アルタード。 3 ~ 4 拍は、少し考えたが、 C ミクソリディアンとするのがよいと思う。 3 拍の B 音はパッシングノート。 2 小節のコード F#7 を、 F#7 - C7     と想定してフレージングしている。なぜそうなるのかは説明しない。 ”  初心者お断り  ”  の処である。また 4 拍目は、 Dm トライアドの分散である。 6 段目で F# スパニッシュスケールと言えるところは、 2 小節 1 ~ 2 拍である。

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 1 段目。1 小節、コードは C#7。ここは C# アルタードでフレージング。 3 拍最後の D# 音は、パッシングノート。 4 拍目に、 F , A , D 音の Dm トライアドの分散が見られる。 C# コンデミよりも C# アルタードの方が F# スパニッシュスケールに近いスケールである。 2 小節、コードは F#7 。ここは F# アルタードでフレージング。全部ではないが 3 ~ 4 拍は、オクターブで弾いている。

2 段目。 1 ~ 2 小節に渡り、 付点 8 分 + 付点 8 分 + 8 分 のリズミックなモチーフを 4 回連続している。 1 小節、コードは C#7 。ここは C# コンデミでフレージング。 2 小節、コードは F#7 。ここは、 F# アルタードとも言えるが、素直に F# スパニッシュスケールとする。 

3 段目。 1 小節 2 小節共にコードは、 GM7 。そして 1 小節 2 小節共に、 F# スパニッシュスケールでフレージングしているが、 A# 音はオミットしている。従って、結果的に F# フィリジアンスケールになっている。そしてここで、チック・コリアの特徴の一つであるペンタトニックのコンビネーションが見られる。 1 小節 3 拍 F# 音から 4 拍最後の F# 音まで Bマイナーペンタ。 2 小節 1 拍最初の E 音から 2 拍の G 音まで E マイナーペンタ。 2 拍最後の F# 音から 4 拍最後の D 音まで B マイナーペンタ。1 小節 3 拍から 2 小節 4 拍までのペンタトニックのコンビネーションで使っている音は、 F# フィリジアンのスケール音のみなのだが、スケールライクに上がったり下がったりするのと違って、ペンタで弾けばペンタのサウンドになるのである。 B マイナーペンタとは、 F# , B , E ,  A ,  D 音となり完全 4 度のスケールでもある。ペンタのフレージングは自然と完全 4 度のフレーズになり、調性感は希薄に、そして浮遊する。他のスケールによる上がったり、下がったりとはまるっきり聞こえ方が違うのである。

このペンタトニックのコンビネーションは、”  SPAIN ” のテーマにも見ることが出来る。著作権上テーマの譜面は提示できない。 4 分音符 = 136 。 4/4  表記の譜面とする。インテンポ、ピアノで始まる最初の 1 小節と、中間部のオールユニゾンの 6 小節だ。まず、最初の 1 小節。 1 ~ 2 拍は Bマイナーペンタ、 3 拍は F#マイナーペンタ、 4 拍は Eマイナーペンタ、のコンビネーションになっている。次に中間部の 6 小節ユニゾン。 1 小節、 1 ~ 2 拍は Eマイナーペンタ。 3 ~ 4 拍は Bマイナーペンタ。 2 小節。 1 拍の D音は Bマイナーペンタ。 2 拍の C#音は F#マイナーペンタ。 3 拍から次の 3 小節 2 拍表の G 音まで Eマイナーペンタ。 3 小節 2 拍裏の F#音から 4 拍表の E 音まで B マイナーペンタ。 4 拍裏から 4 小節 2 拍裏の B音まで F# マイナーペンタ。 4 小節 3 拍の C#音から 5 小節 2 拍裏の A#音まで D#マイナーペンタ。次の A音から 6 小節最後まで Bマイナーペンタとなる。

上の譜面に戻る。

もうひとつ特徴的なのは 1 小節 3 拍から 2 小節 4 拍まで、同じ音符の連続で埋め尽くされている。これは  ” シーツ  オブ サウンド ”   と呼ばれていた  ジョン・コルトレーンのサウンドと同じものだ。ペンタトニックのコンビネーションもジョン・コルトレーンが最初に始めたと言われている。チック・コリアはマイルス・デイビスのバンドに参加している。いわゆるマイルスチルドレンなのだが、アドリブフレージングの方法、音のタイミングなどはジョン・コルトレーンバンドに参加していた、マッコイ・タイナーの影響を強く受けている。マッコイ・タイナーの左手を伸ばさずに音を短く切り、また右手もスタッカート気味にすればチック・コリアになるのだ。マッコイ・タイナーとチック・コリアは聞いた印象がかなり違うので、全然違うピアニストのように見えるが、アナライズしてみると、チック・コリアはマッコイ・タイナーとほぼ同じシステムでフレージングしている。逆にチック・コリアとハービー・ハンコックはかなり違う。フレーズ的にはハービー・ハンコックはマイルス・デイビスの影響を受けている。音のタイミングは、チック・コリア、マッコイ・タイナーに比べて、若干後ろに音を置いている。チック・コリアに比べるとハービー・ハンコックは、少しゆるく聞こえる。

4 段目。 1 小節 2 小節共にコードは GM7。そして 1 小節 2 小節共に B マイナーペンタトニックでフレージング。1 小節 2 小節共に、ほぼ同じ音符で隙間無く埋め尽くされている。” シーツ  オブ サウンド ”  だ。 これは,ジョン・コルトレーンだけでなくチャーリー・パーカーもやっていることだ。

 5 段目。 1 小節コードは Bm7。 2 小節コードは B7。 1 小節最初の E 音から 2 小節 3 拍の B音まで Bマイナーペンタトニック  1  発でフレージング。 3 拍最後の G音から 4 拍最後の C音まで Bアルタード。

 6 段目。 1 小節 2 小節共にコードはF#7。そして共にフレーズは F# コンデミでフレージング。 1 小節 3 拍の A , Bb , F#  音のモチーフを 4 拍でオクターブ上で繰り返している。 4 拍最後の G 音から 2 小節 1 拍最後の Eb 音の 4 音のモチーフを 2 拍で少し崩して繰り返し、その 2 拍のモチーフを短 3 度下に平行移動して、 3 拍のフレーズにしている。音はすべて F# コンデミのスケール音である。