中世ヨーロッパの悪魔の香り・・・ヘヴィメタル

1  Dethrone Tyranny / Gamma Ray

0:03  ドラムとベースのリズムで始まる。テンポは、 164 である。ドラムもベースも少しタメている。

0:09  コーラスでの唄が始まる。このコーラスを聞いて、頭の中をよぎったのは、10チャンネル日曜日深夜の ” Get Sports ” のテーマである。テーマが女性コーラスになっていて、 10チャンネルの女子アナウンサーのコーラスであると、聞いたことがある。大事なことは、この女子アナのコーラス、「何か」が深く乗っていることである。このことがわかる人は、日本でもそんなに多くない。このことは、唄の素人でも、乗せ方がわかれば、唄に「何か」を乗せることが出来るということである。もちろん、ピッチ補正はかなりシビアに、一個、一個、やっているはずである。この ” Get Sports ”  のテーマと同じものが、女声コーラスと男声コーラスの違いはあるが、Gamma Ray のこの曲のテーマにも乗っているのである。ジャズボーカルでは、トニー・ベネット、クラシックの声楽ではスラヴァ、へヴィメタルでは、ハロウィンのボーカル、アンディ・デリス Andreas “Andi” Derisと同じものである。

0:48  ソロボーカルが始まる。ピッチは甘い。低いのが多い。タイミングも少し遅れていて、雑な印象である。コーラスよりは、編集が浅いということなのだが、ライブでのボーカルは、こんな感じになる。

1:00  8 分音符が2つ、4 分音符が1つ、のキメが2 回続くが、キメのタイミングは良好である。ギターのリフは、少しタメて弾いている。

1:12  ギターのリフに、ドラムとベースのビートが加わる。ドラムもベースもわずかにタメているが、かなりシャープで前進感があり、良好。ギターのリフにユニゾンでキーボード(?)が加わるが、ギターよりも少し前に、音を置いている。ギターは相変わらず少しタメている。

1:25  メインのソロボーカル。補正はしていると思うが、ピッチは安定している。タイミングもかなり前で、 0:48  のソロボーカルとは別人(?)なのか。唄にも「何か」が乗っているのである。ドラムのスネアは、少し遅れている。

2:05  コーラスは、相変わらず良好。コーラスの間に入るソロボーカルは、 1:25のボーカルとは別人だろう。先ほどと違い、少し遅れている。

2:45  1:25と同じボーカルのハイトーンだが、少し低めが目立つ。

3:55  いよいよギターソロだ。コーラスや、ソロボーカルよりもわずかに遅れている。4 小節づつ何人かで弾いている様であるが、一番目のギターソロに「何か」が乗っている。この曲のテーマのコーラスと同じものである。

 

ヨーロッパ(ドイツ)ヘヴィメタルのバンドである。当然ヨーロッパの香りがする。

補正や編集は、当然しているだろうが、人間が叩いたり、弾いたり、唄ったりの、人間感が残っている。編集だらけにはなっておらず、演奏の質が高いことが、覗える。薄化粧の感じである。これに対し、イギリスヘヴィメタルバンド Dragon Forceは、整形美人である。人間感が非常に薄い。人間が叩いたり、弾いたりしている感じがない。打ち込みとほとんど同じである。Gamma RayのDethrone Tyrannyに戻る。メインのソロボーカルのタイミング感が良く、ピッチも安定している。かなりのハイトーンでのピッチの甘さがわかると言う事は、ピッチ補正は、全体に浅くしかかけてないからである。ヘヴィメタルの世界も、他と同じで、音(唄)に「何か」を乗せれる人は少ないが、このボーカルは見事に乗せている。この「何か」を乗せれるメインのボーカルが、コーラスにも参加していることで、コーラスも「何か」が乗っているのだと解釈している。タイミングは少し後ろだが、ギターソロにもこの「何か」を乗せることが出来るギタリストが一人いる。 Gamma Ray は、ヘヴィメタルのバンドの中で、上位にランクされるべき、質の高いバンドであると言える。

 

2  Light the Universe / Helloween with Candice Night

0:15  ギターとピアノの 4 分音符・スタッカートのコードのキザミでこの音楽は始まる。テンポは 70 である。拍の裏をベースがキザんでいる。ギターもピアノも裏拍の頭で音を消しているが、すぐには音は消えない。余韻が残る。弦の振動は消えても、ボディの鳴りは残る。スピーカーのコーンもすぐには止まらない。そして、リバーブもかかっている。結局、 2 / 3  位まで音は伸びている。ベースの裏打ちが効果的で、聞いている人にイントロ全体のビートの裏を意識させている。

0:28  男性のボーカルが始まる。そして女性のボーカルが始まる。イントロと、この男性、女性のボーカルを聞いて、頭の中をよぎってしまった曲がある。トニー・ベネットとシェリル・クロウのデュエットで、 ” The Girl I Love ” だ。この唄はもともと女唄で、タイトルは、 ” The Man I Love ” のはずだ。古いジャズのスタンダードナンバーである。動画で観ることが出来る。トニー・ベネットはかなり年を召していて、70 才を超えていると思う。年は召しているが、そのボーカルは健在である。ピッチは少し甘くなっているが、枯れて少し優しくなった声に、「何か」が十分深く乗っている。彼が唄って大ヒットした ” 霧のサンフランシスコ ” も十分「何か」が乗っていたが、 70 才を超えて、十分な人生経験を経て、それに優しさが加わっている。そんなトニー・ベネットの唄に、触発されたかのようにシェリル・クロウの唄にも、「何か」が乗っているのである。この「何か」は伝染すると言えるかも知れない。この ” The Girl I Love “ のシェリル・クロウのボーカルは、一級品のものである。素晴らしい。このトニー・ベネットの一連のデュエットシリーズで良い作品は、エミー・ワインハウスと一緒のものも良い。このエミー・ワインハウスの唄も絶品である。良くないのは、レディ・ガガとのデュエットである。トニー・ベネットの唄は素晴らしいものだ。だが、レディ・ガガの唄には、「何か」がほとんど乗っていない。この違いがわかる人が多くなれば良いのだが・・・。トニー・ベネットとシェリル・クロウの  ” The Girl I Love ” のイントロのピアノと、ハロウィンとキャンデス・ナイトのこの曲 ”  Light The Universe ” のイントロの雰囲気もよく似ている。イントロから「何か」が乗っている。このハロウィンとキャンデス・ナイトのボーカルは、トニー・ベネットとシェリル・クロウを上回っていると言える位、素晴らしいものである。曲調からして、二人共少しタメて唄っているが、ハロウィンもキャンデス・ナイトも深く「何か」が乗っている。ハロウィンの方は、ベンディングを多用して、ドラマチックに、キャンディス・ナイトはストレートに深みを加えて、両者共にビブラートは深い。凄い唄である。ハロウィンのオーディエンスもキャンディス・ナイトのオーディエンスも、ここを気づかないと彼らを本当にわかったことにはならない。彼らが可愛そうである。この唄は、大人の唄である。何時間聞いていても飽きが来ない。

1:00  ギターのキザミが 8 分音符のパワーコードになり、ここからメインのボーカルに対して、男声のコーラスが絡んでくる。このコーラスも、ガンマ・レイの ” Dethrone Tyranny ”  のコーラスに負けてはいない。「何か」が乗っているのだ。

この「何か」が乗っていることが、そんなに大事なことなのかと言われそうだが、音(唄)に「何か」が乗ることで、その音(唄)のカラーが全然別物と言える位、美しく変化するのである。音楽における音色の問題の 90 % は、音に「何か」を乗せることで、解決する。音を硬くとか、柔らかくとか、そんなことはどうでもよい位の美しい音空間が、そこにはあるのである。音楽を「聴く」ということが、表面的なメロディやリズムを聞くことばかりではなく、中身を「聴く」ということであるとすれば、この音に「何か」が乗っているかどうか ということは、音楽にとってほぼすべてであるということが出来る。そして、このことが、アートとしての音楽なのか、アートでない音楽なのかの境目である。表面的なメロディ、リズム、アレンジ等の音の組み合わせから来るものを、マイルス・デイビス(ジャズトランペッター)は、テイストと呼んでいる。音の組み合わせではなく、一個の音から来るものを、サウンドと呼んでいる。音楽の中に、マイルスが言う、サウンドがあるかどうかを、私は問題にしているのだ。2014年、佐渡裕指揮のPMFオーケストラ、このストリングセクションからも、このサウンドを強く感じることが出来る。

1:41  イントロと同じリフだが、アレンジは少し変えてある。ピアノのキザミの雰囲気が良好。タイミングは少しタメている。ドラムも曲調から少しタメている。ボーカルの「何か」が乗っている状態が伝染するのか、歪ませたギターのロングトーンにも、ドラムのパターンにも、ピアノのキザミにも、ベースにも、「何か」が乗っている。全体の雰囲気が、ボーカルが無い状態でも、ボーカルがある時の状態と変わらない。ボーカルがなくても十分美しいのだ。最後のベースの 1 拍 6  連のフレーズにも、「何か」がしっかり乗っている。そして少しタメている。

1:55   2 コーラス目のボーカルが始まる。素晴らしく良い状態だ。

2:22   ギターの 8 分音符のキザミでコーラスが絡んでくる。この曲全体的にドラムのスネアは、タメて叩いている。他の楽器も含めて、ブルースに近い。

2:47  リズムのキメがある。キメのタイミングは少しタメている。ドラムは、スネアでキメて、キックを空いた空間を埋めるのに使っている。キメは、ドラムが他の楽器よりも少し後に音を置いている。

3:13  ベースのソロである。このベースソロは普通だ。悪くはない。

3:30  ギター (Sascha Gerstner ) のソロが始まる。速弾きではない。私の目に涙がにじんでくる。人間、感動が連続すると、涙が出るものらしい。こんな美しいギターのソロが他のどこにあるのか。サンタナのギターの美しさを越えている。

4:26  エンディングのボーカルが始まる。バッキングはピアノのみである。二人のボーカル、共に美しい。泣けるヘヴィメタルがあることに、驚いた。

メタルは、この曲で救われた。ハロウィンは、ヨーロッパ(ドイツ)のヘヴィメタルバンドである。ヘヴィメタルは、パワーがあって、速弾きではあるが、粗野な印象があるのは、私だけではないはず。アートな音楽としては、ワンランク下に見ている演奏家も少なくない。しかし、この曲の前では、クラシックもジャズも、ひれ伏すだろう。もう一度言う。メタルは、この曲で救われた。