パット・マルティーノ フレーズアナライズ 「MAC TOUGH」
「MAC TOUGH」における パット・マルティーノのアドリブソロのフレーズアナライズをしていく。
「MAC TOUGH」は、1988年にレコーディングされた CD ” STONE BLUE” の 7 曲目に入っている。
今から 28 年前に録音され、作曲はパット・マルティーノとなっている。
(譜面は一見ぼやけて見えますが、スマホの方は譜面をタッチ、PCの方は譜面をクリックで クリア に拡大できます)
テンポは 108 . 16 分音符は跳ねている。ピアノのイントロから始まっているが、その部分は省略している。この曲は、聞けばわかるが、ファンクジャズになっている。リズムはファンクなのだ。ファンクは基本的にメロディは前(タメない)。ベースはわずかにタメる。コードバッキングとスネアの2 拍 4 拍は、ベースよりタメが大きい。このイントロのピアノの右手は良いのだが、左手をベースと考えればタメすぎというより遅れている。わざとずらしているのか。それともピアノの低音は、高音よりも遅れるいうのを知らないのだろう。テーマになってからのベースは、これほどタメていない。ピアノが少し幼い。 譜面の 4 段目はキメになっている。パット・マルティーノのアドリブソロは、テーマのコード進行をそのままアドリブしていない。アドリブのコード進行は、別の進行を想定してアドリブしている。リズムセクションもその別のコード進行で動いている。アドリブにおける最後の 4.5 というのは、譜面の 4 段目のことで、 4 小節+ 2 / 4 である。テーマは、Dm における 2 小節のモチーフを 4 回繰り返し、そのモチーフを全音下げて、 Cm で 2 回繰り返し、 4 段目のキメになっている。キメも、前半のキメとそれを 1 全音半下げた後半のキメに 2 分されている。 4 段目のコード進行は、Ⅱm7-Ⅴ7 の連続になっている。4 段目の 2 小節の Cm7-F7の繰り返しは、普通にあることだが、 4 小節目の Am7- D7 - A7(#9)は少し変である。一見変ではあるが、A7(#9)は、ROOTのAを省略すると、DbmM7(b5)となり、D7からの半音下降のドミナントモーションとなる。4度下降(半音下降)は、ドミナントモーションとなるのである。この 4 段目のコード進行は、ごくオーソドックスなコード進行になっている。そして、このA7(#9)は、 2 / 4 を経て、 Dm7へドミナントモーションしている。ワンコード的に始まって、変化が欲しくて、最後にオーソドックスなコード進行を加える作曲手法は、結構多い。ギターのアドリブは、アドリブパートの5 小節目から始まっている。サックスのアドリブは、アドリブパートの最初からアドリブしている。
このギターアドリブソロの採譜は、知人のギタリストによるものだ。
前半、1 段目、Dm7。1小節 2 拍目の A音から 2 小節 3 拍目 F まで、Dm7のコードトーン。 2 小節 3 拍目の F から 4 小節最後まで、 Dmペンタトニック。 1 段目全部がペンタトニックとも言える。
2 段目、 Cm7。 1 小節 2 拍頭のD 音は、9th。 2 拍目裏の Bb から 3 小節 3 拍頭のBb まで Cmペンタトニック+b5。3小節 4 拍裏から 4 小節1 拍表までは、モチーフになっている。 4 小節目はそのモチーフをあと 2 回繰り返して、 4 小節の 4 拍裏から 3 段目 1 小節表拍にかけて、そのモチーフを全音上に移動して繰り返している。
3段目は Dm7であるが、 1 小節 2 拍裏から 2 小節 1 拍表拍まで、その1 音上に上げたモチーフをあと3 回繰り返している。2 小節 1 拍裏 G 音と 2 拍表 A音は、 Dmペンタトニック。 2小節 3 拍裏から 3 小節 1 拍表拍まで 1 小節のモチーフを2 回繰り返している。 3 小節 1 拍裏の E 音 Dm7の9th。 2 拍目は、3 拍目の D 音に向かうクロマチックなアプローチノート。ここは、 G のブルース的なフレーズに聞こえる。 3 拍、 4 拍は、Dmペンタトニック。 4 小節、 1 拍 から 3 拍目まで、3 拍の F に向かうDドリアンスケールを用いたアプローチノートである。4拍目の C#音は、次の D音に向かうアプローチノート。
4 段目、Dm7。 1小節は、全部 Dmペンタトニック+b5。 2 小節 1拍表拍の C音から、 3 拍表拍の E音まで、Amペンタトニック。3 拍裏の F, A 音は、Dmペンタトニック。 4 拍目は、G 音からクロマチックで、 3 小節頭の Eb音にアプローチしている。 3 小節 1 拍は、2 拍の C 音にクロマチックアプローチ。 2 拍は Dm7のアルペジオ。 3 ~ 4 拍は、 Dフィリジアン。 4 小節は全部Dmペンタトニックだ。
アドリブの前半であるこの部分は、ワンコード的なコード進行になっている。Dm7をDドリアン、Cm7をCドリアンと考えれば、モード的とも言える。ほとんど同じことなのだが、プレーヤーがコードを意識してプレイしているか、モードを意識してプレイしているかによる。コードを意識していれば、バッキングのハーモニーがコードっぽくなることが多く、モードを意識していればコードのハーモニーが出ることもあるが、全然コードでないハーモニーも多い。
モードと考えれば、 4 段目 3 小節のDフィリジアンは、Dドリアンからすればアウトということになる。Dm7のコードと考えれば、Dフィリジアンは、 Dm7んのコードトーンを全部持っており、コード的にははずれたスケールではない(ただし、バッキングのハーモニーは9thを避ける)。クロマチックアプローチとフィリジアン以外は、アウトの音もほとんどなく、ほとんどがマイナーペンタトニック+b5と トライアドのオーソドックスなアドリブラインとなっている。これはモードで言えば、マイルス・デイビスのモードに近いものだ(マイルスのトーナルセンターではない)。チックコリアやコルトレーンのアウトだらけの”モーダルセンター”にはなっていない。この方がポップで一般の多くの人にはうけるだろう。
後半、1 段目、Dm7。 1小節は、Dm7ペンタトニック。2 小節、Gブルースフレーズ。ここは、Dm7をG7ととらえている。マイナーコンバージョンの逆をやっている。 3 拍目は、 4 拍目の D音に向かうクロマチックアプローチノート。 3 小節 1 拍は、 2 拍の G音に向かうアプローチノート。 2~ 3 拍は、 Dmペンタトニック。 4拍から 4 小節 1 拍は、 Amペンタトニック+b5。2 拍目は、 3 拍 A音に向かうアプローチノート。4 拍目表拍は、Dm。裏拍は、G(b9)になっている。b9th のテンションなので、G7(b9)ということだろう。この G7(b9)は、次のCm7に向かうドミナントアプローチになっている。
2 段目、Cm7。1 小節は、Cmのコード弾き。 2 小節 3 拍目まで同じ。 2 小節 1拍の最後のBナチュラル音は、CmのC音に向かうアプローチノート(オクターヴ離れている)。 4 拍は、Dmのコード弾きで、これは 3 小節 1 ~ 2拍の Cm7アルペジオに向かうダイアトニックアプローチノート。 3 ~ 4小節は、すべてCmペンタトニックになっている。
3 段目、 Dm7。1 小節 1~2 拍は、Dm7 のROOTと 5度。パワーコードとも言える。そして、1 小節1 拍から3小節 3 拍まで、 Dmペンタトニック+b5とも言える。 3 小節 4 拍表は、次の 4 小節頭の A音に向かうディレイドリゾルブ。 4 小節 1 ~ 2拍は、次の 3 拍表拍の D音に向かうクロマチックアプローチノート。このアプローチノートは、前の譜面(アドリブ前半)の 4 段目 4 拍からのクロマチックアプローチノートと、ポジションは違うが、音型は同じ。パットの手癖のようだ。 2 拍の A音から 4 拍まで、Amペンタトニック+b5。
4 段目。 1 小節 1 拍裏の Ab、 F#音は、次の G音に向かうディレイドリゾルブ。 2 拍、 B、 D、F#は、Bmトライアド。このトライアドは、次の F 音にアプローチ。 3 拍は、Dmのアルペジオ。このアルペジオは、次の 4 拍頭の E音にアプローチ。 4 拍裏の Ab音は、 G7におけるb9thである。 4 拍のフレーズは、次の 2 小節 1 拍頭のG音にアプローチしている。2 小節 1 ~ 2 拍のフレーズは、ターゲットノートである 3拍頭のBb音にアプローチ。 4 拍のフレーズは、ターゲットノートである 3 小節 1 拍頭の Ab音にアプローチしている。3小節 1 ~ 2 拍のフレーズは、3 段目 4 小節 1 ~ 2 拍のフレーズと似ている。 1 ~ 6 番目までの音型が同じだ。 7 ~ 8 番目の G、F音で、次のGb音にディレイドリゾルブしている。 3 小節 3 ~ 4 拍は、Bドリアン。そして最後の Ab音で、 4 小節頭の A音にアプローチしている。 4 小節 1 ~ 2 拍のAm7、D7 を、Em7に置き換えてフレージングしている。コード進行の創作である。 4 小節はすべて Eドリアンである。この4 段目のコードチェンジの激しいキメの部分は、ブルース的にコードを無視して、ワンスケールで処理していない。コード進行に沿って、スケールチェンジを頭に入れながら、半音階を多用しフレージングしている。
この曲でのパット・マルティーノは、全体的にマイナーペンタトニック、マイナーペンタトニック+b5、トライアド、ディレイドリゾルブを含むクロマチックライン等を多用して、フレージングしている。そしてアドリブのフレーズから覗えるのは、ターゲットノートがあって、それに向かって複数の音を使ってアプローチする、ターゲッティングを多用しているようだ。”ターゲットノートがあって”と書いたのは、アドリブの最中にターゲットノートを決めてアドリブしている訳ではない。そんなことをしたら音楽にならない。頭で考えながらアドリブをしている訳ではない。リハーサルにおいて、何度もターゲッティングを繰り返し、演奏時には頭の中にターゲッティング全体が瞬時に鳴って、それを弾いているのだ。パット・マルティーノは、頭で理詰めで考えながらアドリブしてはいないだろう。(2016/03/31)