スケールを考える
バークリー理論におけるアベラブルノートスケールというものは、便利なものであるが、この際無いものとして、スタンダードジャズのコードに適応するスケールを一から考えてみる。コードに対するスケールの設定は、作曲、編曲、アドリブ演奏において重要なことである。
(譜面は一見ぼやけて見えますが、スマホの方は譜面をタッチ、PCの方は譜面をクリックで クリア に拡大できます)
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上の32 小節のコード進行は、ジャズのスタンダード「DAYS OF WINE AND ROSES」のコード進行と同じものである。
まず、この曲の調性を考えてみる。調性記号が b 1 個で、F コードで始まり、F コードで終わっている。したがって、調性は、 F メジャー で決定となる。調性が F メジャーなので、この曲の最初から最後( 1 小節から 32 小節)まで、すべて F メジャースケールで弾ける(吹ける)のではないかと考えた。そして、実際にやってみた。
まず、テンポ 126 , 4 beat jazz で、上のコード進行と同じカラオケを作り、 F メジャースケールを弾いてみた。 8 分音符で、 C , D , E , F , G , A, Bb , C , D , E , F , G , A 音、と上行する。最後の A 音は 4 分音符にして、次に 4 分休符を入れると、全部で 2 小節の長さになる。管楽器などで高音が出しにくい場合は、 8 分音符で、 C , D , E , F , G , A, Bb , C , D , C , Bb, A, G音、 と、 10 番目の C 音から下行する。最後の G 音は 4 分音符にして 次に 4 分休符を入れると、全部で 2 小節の長さになる。この二つの音型のどちらかを、上の譜面の奇数小節の 1 拍表拍から弾いてみた。この 8 分音符主体の音型を 16 回弾くことになる。カラオケは、” iReal Pro ” というアプリで手に入れることができる。
上行のみの音型を A 音型、 途中下行する音型を B 音型 とする。
この音型をコードのバッキングと一緒に弾いた場合、譜面上ハーモニー的に気になるところが何箇所かある。アボイドノートである。まず、 2 小節、コードは A7 +。 Å音型、 B 音型 共に 1 拍表拍に D 音が来る。これは、コード A7+ のコードトーンである C# 音の半音上の音で普通であればアボイド。続いて 4 小節。コードは D7(b9) 。 3 拍表拍に、 B 音型は G 音が来る。これもコードトーンの半音上でアボイド。しかも音価も長い。そして 7 小節。コードは Eb7 。 A 音型、 B 音型 共に、 2 拍表拍の E 音は、コードトーンの半音上の音ではあるが、7th コードの b9 の音なので、ここはアボイドにはならない。8 小節、コードは Eb7 。 A 音型、 B 音型 共に、 1 拍表拍の D 音がアボイド。 13 小節、 Em7 (b5) 、 A7 。 A 音型、 B 音型 共に、3 拍表拍の D 音はアボイド。 27 小節、 Bm7(b5) 。 A 音型、 B 音型 共に、 1 拍表拍の C 音はアボイド。同じく、 4 拍表拍の Bb 音もアボイド。 28 小節、 Bb7。 A 音型において、 3 拍表拍の A 音はアボイド。 2 0小節は 4 小節と同じ。 24 小節は、、8 小節と同じ。ここにおけるアボイドノートはコードトーンの半音上の音という理由によるものである。
このアボイドノートとは、” コードのハーモニーまたは機能を阻害するものでその音は避けろ” という意味だが、実際の演奏ではアボイドノートであっても、聴感上ハーモニーを阻害して聞こえない場合が度々ある。たとえば、ブルージーなフレーズの場合などである。” など” というのは、ブルージーでなくても度々あるからだ。それでは、「DAYS OF WINE AND ROSES」のコード進行において、この A 音型の連続、または B 音型の連続は、聴感上どのように聞こえるのだろうか?各人、カラオケを使用して実際に弾いてほしい。私の聴感上の感想は ” アボイドであってもハーモニー的な違和感は全然ない ” というのが結論である。
この事の示すものは、ある調性が支配するところにおいては、どんなコードもその調性のスケール(メジャースケール または マイナースケール)で弾けるということである。加えて、同時に、そのコードのハーモニーも鳴っている訳だから、そのコードのコードトーンも弾けるわけである。そこで次のように考えた。
どんなコードも、「そのコードがあるところの調性のスケール + コードトーン」 を、そのコードのスケールとすることができる。
それでは譜面に戻る。まず、この曲の調性を考える。1 小節の F コードと、 31 小節の Fコードからこの曲の調性は F メジャーと考える。 1 小節、コードは F。 F のコードトーン、 F ・ A ・ C 音は、すべて F メジャースケールのスケール音に含まれる音なので、この 1 小節は F メジャースケールとなる。 2 小節、コードは A7 +。A7+ のコードトーンは、 A・ C# ・ F ・ G 音。このコードトーンの中で、F メジャースケールに無い音は、 C# 音であるので、この 2小節目のスケールは、 F メジャースケール+ C# 音となる。
この 2 小節目のコードは A7+ なので、A 音から並べ替えると、A フィリジアンスケール+ C# 音となり、これは、A スパニッシュスケールである。「そのコードがあるところの調性のスケール+ コードトーン」 というコードに対するスケールの考え方が、スペイン音楽にもあるようだ。そして、スペイン音楽に限らず、あらゆる民族音楽が、ヨーロッパの機能和製(コード)に出会ったとき、この「そのコードがあるところの調性のスケール+ コードトーン」で作・編曲するという考えに落ち着くことになる。ヨーロッパ音楽のハーモニックマイナースケールも、スパニッシュスケールの b3 をオミットしたスケールを、 5 度下から上に並び変えたもので、この考え方から導きだされたスケールといえる。
2 小節目に戻る。 2 小節目のスケール、「 F メジャースケール+ C # 音」を母体とする 7 音スケールは、
「 F , G , A , Bb, C , C# , E音」( F ハーモニックメジャースケール)
「 F , G , A, Bb , C#, D, E音 」( Aハーモニックマイナーパーフェクト 5th ビロー)
「 F, G , A, Bb , C, D, E音 」( F メジャースケール)
の 3 つになる。
そしてこの 3 つの 7 音スケールまたは、「 F メジャースケール+ C# 音」の 8 音スケールを母体として、複数のペンタトニック、ヘキサトニック、コード分散、トライアドが生まれる。
3 小節目、コードは Am7 。Am7 のコードトーンは、すべて、 F メジャースケールのスケール音なので、ここは Fメジャースケール。
4 小節目、コードは D7 ( b9 )。D7 ( b9 ) のコードトーン・ 指定のテンションで、F メジャースケールのスケール音でないのは、 Eb , F# 音。そこで、この 4 小節目のスケールは、 F メジャースケール+ Eb 音 + F# 音となる。 7 音スケールは、
「 F, G, A, Bb, C, D, Eb 音 」( F ミクソリディアンスケール)
「 F, G, A, Bb, C, D, E 音」 ( F メジャースケール)
「 G, A, Bb, C, D, E, F# 音」 ( G メロディックマイナースケール上行;Dメロディックマイナースケールパーフェクト5thビロー)
「 D, Eb, F, F#, A, Bb, C 音」( Dアルタードスケールの 5 番目の音を # したスケールでこれは、Bbハーモニックメジャーと同じ)
「 D, Eb, F#, G, A, Bb, C 音」(D ハーモニックマイナーパーフェクト5th ビロー)
F# アルタードスケール、 C リディアン7th スケールはGメロディックマイナースケール上行と同じ。BbメジャースケールはF ミクソリディアンスケールと同じ。Bb リディアンスケールは F メジャースケールと同じ。
この 5 つの 7 音スケールまたは、F メジャースケール+ Eb 音 + F# 音 の 8 音スケールから、複数の,、ペンタトニックスケール、ヘキサトニックスケール、トライアドが生じる。
5~6 小節は Gm7 。 Gm7 のコードトーンはすべて 、 F メジャースケールのスケール音なので、ここは F メジャースケール。
7~ 8 小節は、 Eb7 。Eb7 のコードトーンで、 F メジャースケールのスケール音でないのは、Db, Eb 音。そこで、この 7~ 8 小節のスケールは、 F メジャースケール+ Db 音 + Eb 音の 9 音スケールとなる。この9 音スケールから 7 音スケールを導き出すと、
「 F , G, A, Bb, C, D, E 音 」( F メジャースケール)
「 F , G, A, Bb, C, C#, E 音」( Fハーモニックメジャースケール)
「 F , G, A, Bb, C, C#, Eb 音」( F ミクソリディアンb6 ; Eb リディアン7th スケール)
「 F , G, A, Bb, C, D, Eb 音」(Fミクソリディアンスケール )
「 F , G, A, Bb, C#, D, E 音」(Fイオニアンスケール #5 ; Dハーモニックマイナースケール)
の 5 つ。この 5 つの 7 音スケール、そして、 F メジャースケール+ Db 音 + Eb 音の 9 音スケールから、複数の,、ペンタトニックスケール、ヘキサトニックスケール、トライアドが生じる。
9 ~ 12 小節の F , Dm7, Gm7, C7, は、コードトーンがすべて F メジャースケールのスケール音なので、9 ~12 小節のスケールは、すべて F メジャースケールとなる。
13 小節目のコードは、 Em7(b5) - A7 。 Em7 (b5) のコードトーンは、すべて F メジャースケールのスケール音なので、このコードは、 F メジャースケールで弾ける。そして、 A7。 A7 のコードトーンで、 F メジャースケールのスケール音でない音は、 C# 音である。よって、このA7 のスケールは F メジャースケール+ C# 音となる。このスケールは、 2 小節目と同じスケールである。
14~ 16 小節、Dm7, Gm7 ,C7 のコードトーンは、すべて、 Fメジャースケールのスケール音なので、 14 ~16 小節はすべて F メジャースケール。
17 ~26 小節は、 1 ~ 10 小節と同じコード進行になっている。
27 小節は、Bm7th(b5)。 Bm7(b5) のコードトーンで、 Fメジャースケールのスケール音でないのは、 B 音。よって、この Bm7(B5)のスケールは、 Fメジャースケール+B 音 となる。このスケールから導き出される 7 音スケールは、F メジャースケールと F リディアンスケール(B ロクリアンスケール)の二つになる。
28 小節は、Bb7。 Bb7 のコードトーンで、 F メジャースケールのスケール音でないのは、Ab 音。よって、この Bb 7 のスケールは、 Fメジャースケール+ Ab 音となる。このスケールから導きだされる 7 音スケールは、 F メジャースケールと F メロディックマイナースケール上行( Bbリディアン7thスケール)の二つなる。そして、複数のペンタトニックスケール、ヘキサトニックスケール、トライアドが生じる
同じ考え方で、29 ~ 32 小節のスケールは、 F メジャースケールとなる。(2019/10/25)
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